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- June 2007 Archives -

at Delhi, India on 25/Oct/1999

Posted by snotch at June 10, 2007 8:28 PM
 パキスタンとバングラディシュのビザの取得をしたり、家族や友人に葉書を書いたり、中国で出会った旅人に再開しておしゃべりしたり、カルカッタ(コルカタ)行きの寝台特急列車の切符をとるのにインド人と根性比べをしたり、インドカレーやフルーツやマクドナルドの7ルピーのソフトクリームを堪能したりしていたら、あっという間にデリーでの数日が過ぎてしまった。崩しかけていた体調はいきおい復活して、何となくガンガー(ガンジス川)がベンガル湾に注ぐところを見に行ってみたかったのと、ダッカのイラン大使館では期間の長いイランビザが取得できるという情報があったのとで、とりあえずバングラディシュに行くことに決めた。

 インド平野部での地上の長距離移動は寝台列車が一番。バスという方法もあるけれど、ちょっと都会を離れると舗道の状態がいまいちだし、乗り心地と信頼性の点で断然鉄道に軍配が上がる。インド国産TATAのバスは趣があって好きだし、誇り高き職人気質の運転手のテクニックも素晴らしいけど、良い席が取れるかどうかは運次第だし、横になれないし、そもそもデリーとコルカタ(カルカッタ)を結ぶ路線が無いので何回乗り換えて何日かかるのかわからない。それはそれで面白いかもしれないけれど、そこまでバスにぞっこんではないので、デリー - コルカタ間の1446kmを約24時間で走るPOORVA Expressという寝台特急列車でコルカタへ向かうことにした。

 夕刻、寝袋とフィルムの詰まったバックパックを背負い、カメラ一式が入ったカメラバックを肩から掛けて、出発の30分ほど前にデリー駅に到着。インドで指定席のある列車に乗車する場合、大体出発の30分くらい前になると列車の各号車毎の搭乗者のリストがプラットホームの掲示板に張り出されるので、乗客は自分のチケットを照らし合わせてシート(ベッド)の位置を確認するようになっている。リストには、名前と性別、年齢が掲載されているので、自分の前後の人物の属性を見れば、これから自分が座るであろう座席の雰囲気が大まかに想像つく。チケットにも座席番号が書いてあるので改めてリストで確認することも無いのだけど、自分の周りにどんな人が座るのかっていうのはやっぱり気になる。
自分のシートの前後周辺を確認すると、前後3人くらいはツーリストと思われる外国人の名前が並んでいる。本当のところは分からないけど、外人は外人でかためておけば、少しでも列車内のトラブルが減るだろうというインド国鉄の配慮ではないかと勝手に想像しながら、列車が入ってくるのを待つ。

 出発の15分前、ゆっくりと列車がホームへと入ってきた。そもそも列車の大体が指定席だし、列車がまだ止まっていないというのに、気の早いインド人たちは、ステップに飛び乗ってドアをこじ開け、ひょいひょいと列車の中に吸い込まれていく。

 インドの寝台車の車内は、三人掛けのシートが向かい合わせになった空間が一つの単位となって半個室のようになっていて、その単位が廊下に沿って並んでいる。昼間のうちは、三段式ベッドの一番上は網棚代わりの荷物置き、中段のベッドは折り畳まれてシートの背もたれ、下段のベッドはシートの座面にとして機能しているが、夜になるとシートの背もたれを中段のベッドとして組み立てて、即席3段ベッドを作るシステムだ。隣の空間の同じ段で寝ている人の寝息がかからないように、向かい合わせシートの空間同士は天井までの壁で仕切られているので、大体四畳半くらいの大きさの個室といった雰囲気だ。ただし、廊下とは何の仕切りも無いので完全な個室とまではいかない。

 水とビスケットを購入して準備万端。いよいよ自分の座席へ到着すると、外国人だけのはずの空間に既にインド人が3人。他人の指定席を勝手に陣取ることはインドで普通に良くあることなので、そのときは特に気にしなかったけれど、振り返って思うに盗難劇は既に始まっていたんだな。

at Delhi, India on 25/Oct/1999

Posted by snotch at June 26, 2007 9:02 PM
 乗車時の混雑で車内の廊下はごった返しているので、とりあえず網棚代わりの上段ベッドにカメラバッグを置き、座席に座って股の間にバックパックを挟み、自分の身を引っ込めて混雑が収まるのを待つ。目の届かないところに放置してある荷物はいつ無くなってもおかしくない、というか実際すぐに無くなるので、車内の椅子やワイヤーに荷物をしっかりと固定して、鍵をかけておかなくてはならない。ましてや寝台列車なので、付近の人々が一晩中起きて自分の荷物を見ていてくれることもないわけで、よりいっそう気をつけるに越したことは無い。早速、座席下のワイヤーに持参のチェーンを絡め、そのチェーンをバックパックと絡めて南京錠で結合する。次に頭上のカメラバックをと立ち上がって手を伸ばしてみると、なんとカメラとレンズ一式が入ったバックがない!一体何が起こったのか瞬間的に察知したはずだが、まだ何かの間違いではないかという思いがどこかにあって、数秒の間、周囲を探している自分がいた。すぐに開き直って車外に駆け出し、顔を左右に振って目を凝らし、プラットフォーム上の人影と物影を走査するようして探すが、それらしいものは何も見つからない。絶対に見つかりっこ無いという絶望的な気持ちを抑えながら、それでもと一番近くの階段を駆け上がったが、広大なニューデリー駅のホーム群、駅周辺に広がる雑居ビルの群れ、そこら中のインド人の雑踏具合を、線路を跨ぐ歩道橋から一望したとき、さすがにあきらめた。

 あきらめた瞬間頭をよぎったのは、外国人旅行者しかいないはずの座席空間にいた三人のインド人だ。再びダッシュで車両の座席に戻った。三人のインド人は既にいない。そこで初めて全ての経過が一つに繋がった。列車に乗る前から全ては仕組まれていたというわけだ。座席に予め陣取っていた三人のインド人には任務があって、先ず標的(僕)の位置を確認して監視と誘導に優位な居場所を確保し、通路側の持ち去りやすい位置に僕の荷物を誘導し、荷物を持ち去るスキを監視して持ち去り役の人物に情報伝達することだったのだ。

 カメラバックを上段のベッドに置く際、いつもなら一番通路から遠い場所に置くか、それが出来なければ直ちに鍵をかけるのであるが、今回はそれをしなかった。それが彼らが導いた僕のスキだ。座席に着いた時点で既に、ビニール袋に包まれた小さな荷物が上段ベッドの中央付近に置いてあったのだが、僕がビニール袋の奥側にカメラバックを置こうとすると、突然隣のインド人が立ち上がってビニール袋を通路側に寄せようとする。インド人の体とビニール袋のおかげでバッグを奥にやることができない。後々から考えれば不自然極まりないこのインド人の行為にも関わらす、通路側は大混雑しているし、バックパックを担いでいて思うように身動きが取れないので、インド人とビニール袋を乗り越えてまでカメラバッグを上段ベッドの奥にやるのが「面倒臭い、後でいいや」と一瞬思った。都合の良いように自分が演じさせられることがあるということ、面倒くさいという一瞬の心境がスキへと繋がることを、強烈な形で思い知らされたのだった。