at インド ダラムサラ(Dharamsala) on 09/Sep/1999
マクロードガンジから山の手に向かって数キロ程度歩くと、Bhagsunathという村にたどり着く。ヒンドゥ寺院を中心とした静かな村である。住んでいる住民はチベット人でないから、もともとこの地にあった村なのだろう。村の集落のはずれに、庭に大木が生い茂る民家が一軒だけ離れて建っていて、周囲の景色に溶け込みながらも堂々とした外観が印象的である。この村の家々に共通しているのは、素材にスレートが使われていることであるが、その民家では、庭の敷石から、壁、屋根に至るまで、総スレート仕上げになっていて、特にぎっしりと隙間なくスレートを積み上げて形作られた外壁は、ひときわ重厚感を発している。
さらに渓谷の奥へと進んで行くと、徐々に緑が途切れ途切れになり、急斜面が目前にせり出すようになる。空を見上げると、すぐ間近にあるように見える雲が、怖いくらいのスピードで流れている。時折、雲が途切れた瞬間に薄日が差して、あちこちの山肌がきらきらと眩しく輝くのに見とれていたが、しばらくたって、そのきらきらと輝くものの正体は、どうやら無数の小さな石片であることがわかる。目を凝らすと、その石片が露出する斜面の遥か上方に、複数の人影がうごめいているので、どうにもその正体を確認したくなって、その斜面を登っていった。
恐る恐る近づいてみたものの、何のことはなく、そこは 5,6人の男たちがスレートを加工する現場であった。彼らの生業は、毎日ここまで登ってきて、数人ずつの共同作業で採掘・加工をこなし、出来上がったスレートを村まで持ち帰るということである。見ていて実に地道な作業である。ちなみに、標準的大きさのスレートを、一片2Rs程度で売るのだそうだ。
30分も眺めていると、スレートを長方形に切り出す担当者の脇には、こんもりと石の削りかすの山が出来る。それを、採掘の担当者がすくって運び、斜面下方へ押し流すのだ。あの、きらきらと光る山の斜面の正体が、彼らが毎日繰り返すスレート加工の削りかすの堆積であること思うと、恐れ入りますとしか言いようがない。