人の家に世話になる癖。今夜は、朝の水上マーケットへボートを漕いでくれたオッチャンのお家に泊めてもらう。
「明るい内にシャワーしておき」と奥さん。行くと大きなレンガ囲いの中に茶色い雨水だかメコンの水だかが溜まっていて、それを片手鍋形のバケツで掬って大きなバケツに一回分の水を用意するのだが、、、
水が少ないので、囲いの縁にまたがって思いっきり腕を伸ばして掬わなければいけない。やっとバケツ一杯分の水を確保した時には、水浴びしがいがあるなあと嬉しくなるほど、レンガの土で体中が汚れる具合だ。
ベトナム人は陽気だ。晩御飯の後小さなグラスでお酒を飲むのだが、「ヨォー!(乾杯)」とやってクィッ、自分が一口飲んだ残りを誰かに渡すと、渡された相手はそのグラスを飲み干さなければならない。
相手によって初めの一口の量を変えたり、最初につぐ量を加減したりはするが、まあそんな単純なやりとりを延々続ける、ヨォー!ヨォー!な夜。
オッチャンが、夜のメコンへボートを出してくれた。
夜の川は恐ろしく、そして美しい。そこには完全なる暗闇と静寂がある。
幼い頃、夜布団にすっぽり包まると、真っ暗な中自分は目を開けているのか閉じているのか分からなくて怖くなった記憶がある。東京で暮らしていると、外の世界も、夜はそんな風に暗いことを忘れがちだ。
遠くにもう一つ、ボートを漕ぐ音がする。真っ暗闇の中で音の方向感覚はあまりに頼りなく、愕然とする。
しかし更に愕然としたことには・・・オッチャンは、それがどこにいるのかどころか、その乗員が近所の夫婦であることまで見分けて、声を上げて彼らとしゃべり出した。
夜中、トイレに行きたくなったが、電気がどこにあるのか、そもそもあるのか?分からない。手探りで昼間水浴びしたその向こうにあったトイレ(地面に埋め込まれた便器の両横に、足乗せタイルがある)の辺りへ行って、大体この辺と思う所で用を足してまた手探りで戻ると、奥さんが玄関の戸を開けて待ってくれていた。
思わず「シン・ローイ(ごめんなさい)」。