上京し、まずやらなきゃと思ったのが、魚をさばくことだ。
一人暮らしを成功させるには、魚をさばくしかない、と思い込んでいた。
毎日曜のように、駅の傍のスーパー丸正で鯵やら鰯やら秋刀魚やらを買ってきて、さばいた。
ちょっと上達すると、イカに挑戦し、水を張ったボウルに浮いた8個の目玉に勝利を覚えたりした。
魚をさばけることが、美味しい料理を作れることとイコールでないことは、すぐ分かった。
けれど、メリットは確かにあった。
自分の腕に打たれる注射針を、直視できるようになった。
鋭利なものが、柔らかい表面に飲み込まれて行く様子を直視する度胸。
そこからプシュッと出てくる赤黒い内臓を見慣れたら、注射どころか、血を抜かれたって平気になった。
(私の幼少を知る人から見たら、かーなーりの成長)
半年も経つと、魚をさばくより他にすることが出来て、日曜の朝スーパーに行くことも無くなった。
でもたまに、ほんとにたまに、きっと自分が最近いい生活をしていないと思う時、思い立って鮮魚を買って来る。
最近の生活の埋め合わせをしたような満足感を、簡単に得られる。
これもまあ、メリットだ。