宿にいつもいるトゥクトゥクドライバーの、これまたいつもいる息子チャームくん。こやつは毎晩、ナイトマーケットへ行く誰かにくっついてきて、一口しか飲まない甘いジュースや、その他指差せる限りの食べ物をねだる。日本人の女の子は大抵彼の餌食になり、「チャーム、もぉチャームひっぱったらダメ〜」なんて言いながらニコニコして母性をばらまいている。旅をしていると、こうして上手に旅行者にかわいがられる術を心得た子供にしばしば出会う。
私はチャームに対して全く母性を見せていなかったので、ナイトマーケットで出会っても賢い彼は私の方へは一瞥をくれるだけだ。しかし、今日は私の持っている水筆ペンに興味を示し、「こりゃ何でも言う事聞いてしまうわな」と納得の満面の笑みを浮かべて寄ってきた。私は暇な時間を有効に使うべく、小さな18色セットの固形水彩絵の具(Winsor & Newton社製)を、墨の代わりに水の入った水筆ペンで溶いて、四つ切サイズを適当に切った画用紙に絵を描いたりする。A5サイズのプラスチックケースに数枚の画用紙を入れておいて、描く時はケースを画板代わりに使うと、道具全部でも小さなポシェットに入るくらいに収まり、とても気に入っている。
彼は水筆ペンを持ち、18色を順にグリグリ触っていく。水を出さずに全色触るもんだから、筆先はボサボサだし、固形絵の具は白も黄色も茶色っぽく汚れていく。でも、人はこんなに嬉しそうな表情が出来るのだ。さすがの私も微笑んで遊ばせていた。しかしチャームはやっぱりチャームだった。「くれ」。そう言っている。目で。「これ、面白い。くれ。」結局は駄々をこねる彼を父親がなだめて連れ去った。後味が悪かった。
Posted by asummer