March 5, 2003

偉大なGoogle が生み出す懸念

ZDNN 2003年3月4日 03:07 PM 更新

優れた検索技術で定評を得ているGoogle。しかし、ブロッグサイト買収や有料検索拡大など「検索と関係のない」事業拡大の動きが、一部でサイトの偏好やプライバシーに関する懸念を呼んでいる

 優れたWeb検索ツールで知られ、また愛されているGoogleだが、新たな分野へと進出するに伴い、その計画に疑問の目が向けられるようになってきている。

同社は最近、Webログ(ブロッグ)の草分けであるPyra Networksを買収(2月18日の記事参照)。その直後に、自社サイト上で行っている検索関連の広告リンクの販売を、パートナーのサイトにまで拡大する計画を発表した。

 これらの発表で、Googleは新たな領土へと乗り出していこうとしている。だがこの動きは、同社の新たな方向性への関心ばかりでなく、いくらかの懸念も招いている。

 「Googleはいつも『われわれは検索にだけ集中する』と言ってきたが、(Pyraの買収は)検索と何の関係があるのか? 関係ないではないか」と業界ニュースレターSearchEngineWatch.comの発行者、Danny Sullivan氏。

 Googleは常に新しい製品/サービスをテストしては手を加えているため、その計画に関しては絶えず憶測が飛び交っている。よく言われているのが、Googleが製品ラインアップを拡充して、Yahoo!など、検索ツールを中核にニュースクリップにWebベースメール、出会い系などのサービスを集めたWebポータルと直接競合するのではないかという説だ(2001年4月の記事参照)。

 GoogleはPyraの買収で、Yahoo!のGeoCitiesに似たWebパブリッシングツールを手に入れ、ポータルモデルにある程度近づくことになる。GeoCitiesは、会員の個人サイトをホスティングし、また個人サイト作成の手助けをしている。

 PyraのBlogger.comは、簡単にアップデートできる個人用のWebページ(ブロッグと呼ばれる)の立ち上げを支援している。ブロッグはインターネットの至る所で見られ、Pyraのブロッグツールはその中で最も人気の高い部類に入る。Pyraが1月に明らかにしたところによると、同社サービスの登録ユーザーは100万人に達したという。

 またGoogleはPyraの買収により、Webパブリッシングツールを手にするだけでなく、優れたデータ収集/分析技術の柔軟性をいっそう高め、リーチを拡大できるだろう。例えばGoogleは、Blogger.comユーザーがブロッグに載せたリンクを利用して、Web上に流れるニュースの情報をより早く集める方法を見つけだすかもしれない。これは、同社が少し前に立ち上げたニュースサービス(9月24日の記事参照)の強化につながるだろう。このサービスでは、ニュースサイトを巡回して最も重要なニュースを探しだし、独自の計算方法を使ってニュースの重要度を決定している。検索エンジンでは通常、こうした選別プロセスは人の手を介さずに行われる。

 ブロッグ世界では、多くの人々がGoogleのPyra買収を歓迎しているが、その影響に懸念を抱く人も多少いる。

 ほとんどのブロッグには、ほかのWebサイトやブロッグへのリンクが多数含まれている。ブロッグ作成支援ソフトを買収することで、Googleはその背後にある大量のデータを買うことになる。今のところ、同社が検索エンジンを介して見つけられるのは、ユーザーがオンラインに記した軌跡の最初の一歩だけだ。しかしブロッグに載せられたリンクをたどることにより、その軌跡を後々までたどっていけるようになる。つまりサイトAがどのようにサイトBにつながり、それがサイトC、D、Eにどう続いているかが分かる。

 そしてGoogleは初めて、コンテンツのランク付けと同時に、コンテンツのホスティングにもあたることになる。これが、利害の衝突を生む可能性がある。

 「サービスとインフラを同じ企業が所有すると、そこに危険が生じる。その片方を利用して、もう片方に利益をもたらすというのは魅惑的な考えだが、結局は生態系に悪影響を及ぼす」とInterconnectedブロッグの筆者、Matt Webb氏はメールでの取材に応えて語る。

 ブロッグトレンドと集合的知性(スマート・モブズ)理論に関する著書「Small Pieces Loosely Joined」「The Cluetrain Manifesto」をものしたDavid Weinberger氏も、GoogleがPyraの買収によって落とし穴にはまる可能性を指摘している。

 「Googleがそうなると考える理由はないが、普通の企業ならPyraを買収すれば、『自分の立場を利用して(Bloggerベースのサイトを)優先しよう』と真剣に考えたくなる誘惑に駆られるだろう」(同氏)。


プライバシー侵害の懸念

 Googleは、検索クエリーに対して高速で適合性の高い結果を提供しようと熱心に取り組んだことで、Webサーファー、パートナーのネット企業、同社の株式公開を待つ投資家から注目されるようになった。最近、AppleやCoca-Colaといった有名ブランドを抜いてブランド・オブ・ザ・イヤーを獲得した――自社サービスの広告を出したこともないのに――ことにも、Googleの強さが表れている(2月12日の記事参照)。

 しかし一部では、その名声の影の部分も徐々に見えてきている。

非営利調査団体Privacy Foundationのマネージングディレクター、Stephen Keating氏は、Googleに特有の懸念はさておき、同社は人々の情報へのアクセス方法が本質的な変化を遂げたことをありありと示していると語る。例えば、最近オンラインに掲載された法廷文書によると、Googleのような検索可能なデータベースで、個人の詳細な情報がさらけ出されることがあるという。

 「Googleは非常に強力な検索ツールだ。それ故、もはやインターネットプライバシーの意味を語るのも難しい。(Googleを使うと)セーターの毛糸をほどくように、個人の情報をすべて明らかにできる」(Keating氏)。

 同社がもっと意図的に危険をもたらす可能性があると懸念する向きもある。

 Googleは世界的に人気が高い。このため多くのWebサイト管理者が、自分たちが得ているインターネットトラフィックの大半は、Googleが編集した検索結果のおかげだとして、懸念を持つようになっている。こうした状況から、Googleの検索アルゴリズムに対して訴訟が持ち上がった(10月23日の記事参照)。

 また、Googleのデータ収集のやり方に対しても、一部からプライバシーの脅威になる可能性があるとの批判が向けられている。

 Googleはさらに、Blogger/パートナーサイトの検索に関係ないページ上でリンクを販売するという動きに乗り出し、24/7 Mediaやかつて広告を販売していたDoubleClickのような広告ネットワークに近づいている。これら企業は以前から、cookieのような追跡技術を使ってWebサーファーを監視し、彼らの関心に結び付いた広告を送ろうとしている。だがこうしたやり方には、厳しい監視の目が向けられている。

 ドットコム時代、最大の広告ネットワークだったDoubleClickは、ターゲット広告を提供する目的で、Webサーファーをどこまでも追跡することができるという理由で、かなり厳しい批判にさらされた。同社はオフラインのダイレクトマーケティング業者Abacusを買収し、Abacusの顧客の個人データと、それまでは身元を特定できない形で記録していた個人のWeb利用習慣のデータを1つに統合すると発表したことで、プライバシー侵害の恐れがあると激しい反発を受けた(2000年1月の記事参照)。同社はその後、規制当局とプライバシー擁護団体の批判を受けてこの計画を取り消した。そしてドットコムの破綻後、広告収入の減少から広告ネットワークを売却した。

 Googleのデータ収集能力に対しても、一部の人々が同様の警告を発している。中には、Webで最もプライバシーを侵害しているサイトを決定するコンテストにGoogleを推薦したサイトもある。

 Googleをこの「Big Brother」コンテストに推薦したのは、Google-watch.org。同サイトは、Googleは野放図にビジターのデータを収集していると主張する。

 こうした批判の多くは、Googleが「cookie」と呼ばれる一般的なWeb追跡技術を使って収集しているデータに関連している。多くのサイトはビジターのハードディスクにcookieを置いて、ビジターが再度そのサイトにアクセスした際に、どのサイトに飛んだのかをチェックしている。ほとんどのcookieは比較的短い期間で有効期限が切れるが、Googleのcookieは2038年まで機能するよう設定されており、ビジターのハードディスクに、ビジターが検索に使ったキーワードにリンクする一意のIDを埋め込んでいる。

 Googleはまた、ユーザーのブラウザの種類とIPアドレスも記録している。理論的には、この情報を使って、特定のコンピュータでWebをどう利用したかを追跡することが可能だ。ただしGoogleのプライバシーポリシーには、同社は個人を特定できない形でデータを収集していると記されている。

 「問題なのはGoogleの巨大さだ」とGoogle-watch.orgの設立者であるDaniel Brandt氏。同氏は、Googleの監視を支援するためにこのサイトを立ち上げたと語っている。「米連邦政府がテロの端緒を最も簡単につかむ方法としては、Googleと手を組んでバックドア追跡システムを仕掛け、検索を利用したユーザーの位置を特定し、ユーザーがどんな検索キーワードを使ったかを調べるというやり方が考えられる。そうすれば、テロ対策という名目で世界のマインドシェアを正確に把握できるだろう」。

 Googleにデータ収集に関する質問をメールで送ったが、個別の質問についての回答は拒否された。同社の返信には、同社のプライバシー慣行は、ユーザーの信頼に反するものではないと保証すると書かれていた。

 同社の企業開発担当副社長、David Drummond氏はこの返信で次のように述べている。「検索結果の品質を高める取り組みの一環として、ユーザーがどのように当社のサイトを利用しているのかを分析している。この情報を利用することで、当社は検索結果の品質を大きく向上させ、数百万の人々の情報検索を支援してきた。当社は個々人のユーザー情報をサードパーティと共有することはなく、またユーザー情報の保全とセキュリティに真剣に取り組んでいる」。

 Drummond氏はまた、ブラウザの設定を変えて、Googleのcookieを無効にすることもでき、cookieを無効にしても検索ツールに影響はないとしている。

 Drummond氏はPyraの買収について、Googleは引き続き「偏りのない客観的な検索結果を提供し、Googleユーザーに対してもBloggerユーザーに対しても最高レベルの誠実さと敬意を払う」ことに集中するとしている。

 今のところGoogleは、誠実という評判を損なうようなことはしていないが、その影響力が高まるにつれ、同社にはもっと耳目が集まることになるだろう。

 「Cluetrain Manifesto」の著者のWeinberger氏は、皮肉なことに、Googleに対して最近持ち上がっている懸念の多くは、同社がインターネットコミュニティで信頼を得ているが故に起きたものなのかもしれないとしている。

 「インターネットは文字通り、“プロトコル(決まり事)”だ。そしてそれに、お互いにどう接し合うかという社会的な決まり事がたくさん付いてくる。Googleはわれわれの目に見える範囲では、ほかのどの企業よりもこれらの決まり事を尊重している。しかし今、同社は図らずも、自らの成功により不信を招くという立場に立たされている。それは同社が強大で、皆に頼られているからだ」。

Posted by sunouchi at March 5, 2003 8:46 PM