March 5, 2003

ソフト開発者、ハーバード大学に「ブロッグ活用法」を指南

ZDNN 2003年3月5日 02:41 PM 更新

ハーバード大学の“ブロッグ”プロジェクトのリーダー役にDave Winer氏が抜擢された。UserLand Softwareの創業者で、インターネット上で最も長く続いているWebログの1つを立ち上げたことで知られる同氏に“ブロッグ”ブームについて聞く

 アメリカ最古の大学がインターネットで最新のホットなトレンドに乗り、学生や教職員のWebログ(ブロッグとも呼ばれる日記形式のWebサイト)活用の指南役としてソフト開発者のDave Winer氏を起用した。

ハーバード大学はソフト会社の元役員である同氏を、ハーバード大学ロースクールに属すBerkman Center for the Internet and Societyのフェローとして迎え入れ、「Blogs at Harvard Initiative」という新たな取り組みのリーダーの役割を託した。テュレーン大学で数学を学び、ウィスコンシン大学でコンピュータサイエンスの修士号を取得したWiner氏は、Web上の公開日記で情報を発信するコツをハーバード大学の学生と教職員に伝授する。

 大学のエリートたちのブロッグ活用の案内役となるWiner氏は、コンテンツパブリッシングツール/サービスの専門企業UserLand Softwareを創業、最高経営責任者(CEO)を務めていた。同氏はSOAPやXML-RPC、RSS、OPMLなど関連する多数の仕様を作成、あるいはその策定に貢献した。インターネットで最も長く続いているWebログの1つ、Scripting Newsを立ち上げたことで最も知られているはずだ。

 同氏はブルックリン生まれで47歳。CNET News.comでは同氏に、ハーバード大学の既存のブロッグを組織化する取り組みの進行状況などについて話を聞いた。同氏はマサチューセッツ州ケンブリッジのオフィスでインタビューに応じた。

――最初に見たWebログを覚えていますか?

Winer 見るよりも先に作ってましたね。1996年2月のことです。私は当時Wiredの寄稿編集者で、通信品位法(CDA)に対抗して「24 Hours of Democracy Project」を実施したのですが、オンライン上でスポンサーや協力サービスがどんどん増えていきました。そこで、この動きを1つのWebページで新しいものから順に掲載するようにするべきだと考えました。そしてこう思ったのです、「これは便利だ。プロジェクトが終わったら、このことに取り組もう」とね。

 私たちはそれをWebログとは呼んでいませんでしたが、まさにそのものでした。その後間もなく、私はUserLandのスクリプト環境である「Frontier」に関するWebログをスタートさせました。当時私はUserLand SoftwareのCEOだったんです。それから1年後の1997年4月に、私は自分のWebログとしてScripting Newsを立ち上げました。これは現時点でインターネットで最も息の長いWebログでしょう。というか、その1つですね。インターネットでは、最上級の形容詞は、後で事実ではなかったということになりがちですから。

――どうしてブロッグと呼ばれるようになったのですか? また、このメディアあるいは形式はどのように発展してきたのですか?

Winer Webログは年々成長しています。Robot WisdomというWebログを公開しているJorn Barger氏がブロッグという言葉を考え出しました。ブロッグは今や大勢の人が作成していますし、以前よりずっと作成しやすくなっています。ブロッグを扱いやすくする取り組みを私たちが進めてきたことと、人々がインターネットを使いこなすようになってきたことが背景にあります。ブロッグの作成は最終的には、電子メールやワープロ操作のように基本的なスキルになるでしょう。普通に文章を書く感覚でブロッグを作るようになるわけです。私が大学で仕事をするようになった理由もそこにあります。私たちは学生や教授にブロッグの作り方を教えますし、彼らは彼らの学生に教えることになります。つまり、私たちは長い道のりを進む準備をしているわけです。

――ハーバード大学ロースクールとの関係はどんなふうに始まったのですか?

Winer トントン拍子に話が進みました。私は長年ビジネスとしてソフト開発に携わってきましたが、ほかのことをしようと考えていました。一方、ハーバードの人たちは、学内のさまざまな組織間で情報を共有できるようにすることに非常に関心を持っていました。彼らは昨年末に開いた会議で、ハーバード大学のデジタルID管理のあり方を確立しようと討議を行い、アイデアが生まれてきたのです。ハーバードは分権化が進んだ巨大な大学で、小さな中核組織と共にビジネススクールや行政学、図書館学など多数の学部や大学院で構成されています。多数の部門を持つ企業のようなものです。どうすればそうした部門間で力を合わせ、情報を共有して仕事の重複を排除することができるか――。私たちがビジネスの世界で頭を悩ませていることがここでも課題となっているわけです。

 その解決策としてWebログが有力な候補として浮上したため、大勢の人がハーバード大学に「Daveと話してみるといい」とアドバイスしました。そして、私はたまたまクリスマスで東海岸に来ていたので、ハーバードを訪ねました。すると彼らは私をフェローとして招いてくれたのです。

――ハーバードにまだブロッグが普及していないというのはとても意外です。

Winer 学内全体でも公開中のWebログは10くらいでしょう。率直に言ってまだ産声を上げたばかりです。今後は学内のあらゆる面に関するWebログが立ち上がるでしょう。私の任務は大学全体がカバーされるように持っていくことです。Webログに取り組む義務は誰にもありませんが、希望する人は誰でも取り組んでいいことになっています。真に有意義なWebログが100サイトも生まれれば、私は非常にうれしく思いますし、ほかの人も皆とても喜ぶでしょう。

――ハーバードでのあなたの具体的な役割はどのようなものですか?

Winer 布教者、教育者、研究者です。教えるのと同じくらい学びたいと考えています。何年もずっとソフト作りを手がけてきましたが、ユーザーと接した時間はそれほどありません。取り組んできた問題は主に技術的なもので、「これこれのことをどうやって処理するか」「何を基本機能にするか」「これらをどう結びつけるか」といった具合でした。今度は反対の立場に立って、ユーザーコミュニティのソフトに対する反応を見ていくつもりです。そして「どうすればより良いソフトになるのか」「ソフトの活用の障害は何か」などを学び、学んだことを広く分かち合おうと考えています。学んだことを発信して、誰もが知ることができるようにしていきます。

――あなたはかねてから、Webサービスに欠けているのは企業向けではなく個人向けのアプリケーションだと話していますが。

Winer Webサービスの企業向けアプリケーションが有効なのは分かりきったことです。お金や購入注文をやり取りする手段としてインターネットを使うことには何の問題もありません。でも、インターネットで行われることはそれだけではないし、それは最も興味深いアプリケーションでもありません。私はWebサービスを、サーバアプリケーションとWebログの作成ツールを連携させる手段ととらえています。現在、SOAPやXML-RPC、RSS、OPMLを応用した技術開発の取り組みが多数進んでいます。優れたWebログ作成ツールと、複数のソースからWebログを集めて読めるようにする仕組みが開発されているのです。

――ブロッグは情報共有のあり方にどんな影響を与えていますか? 特にジャーナリズムとの関連ではどうでしょう?

Winer IT報道など一部の分野では、Webログがプロの仕事に取って代わる動きが大きく進んでいます。

――え、何ですって?

Winer News.comは例外でしょうがね。5年、あるいは10年前の状況を考えてみてください。メディア業界にITをカバーする1つの大きなセクターがあったわけではなく、もともとこの分野には一握りの媒体しかありませんでした。今、人々はWebログを使って、お互いのためにお互いに情報を提供し合っています。プロのジャーナリストは今も記事を書いていますが、その数はずっと減っています。Webログはジャーナリズムなのです。大きなインパクトを与えているか? もちろんです。大きな出来事が起きたとき、私はプロのジャーナリストの記事を必ずしも頼りにしません。その出来事に実際にかかわっていた人たちのWebログを読むことができれば、それを参考にします。

 BBCは非常に注目すべき動きを見せています。アマチュアの写真家に写真の提供を募ったのです。つまり、彼らは今後拡大の一途をたどる流れに飛び込んでいるわけです。コロンビアで大地震が起きたとき、彼らはどんなルートで写真を入手したと思いますか? プロのジャーナリストからではありませんでした。

――つまり、プロのジャーナリストはニュースの理解に役立つ価値ある情報、文脈や背景を何も伝えていないというわけですか?

Winer 典型的なニュース記事は、取材で得たコメント、多少のつなぎの文章、いくらかの事実、等々といったもので構成されています。大部分は人々のコメントです。仲介者を通さずにコメントが得られるとしたら、CNNが報道の世界にもたらしたことさえも、一体何だったのかと問い直さざるを得ません。彼らは自分たちの給料を少しばかり稼いだかもしれませんが、Webログは既にジャーナリズムへと成長していますし、その内容ははるかに充実しています。ジャーナリズムは大切な仕事ですが、せんじ詰めれば出来事に対する見方を提供することにほかなりません。プロはこの技術をどんどん使うようになると思います。

――ブロッグは教育にも同様の深い影響を与えると思いますか? そうした流れがハーバードから広がっていくのでしょうか?

Winer まったくそのとおりです。私たちの取り組みについて知りたがっている膨大な教育機関から電子メールが届いています。多くはWebログの活用で大きく先行しているところです。ハーバードの試みが特別に重要なのは、ここが普通の大学ではなく、非常に大きな影響力を持っているためです。

Posted by sunouchi at March 5, 2003 8:43 PM