February 12, 2003

地球はインターネットによって救われる?

ZDNN:アンカーデスク 2003年2月10日 07:16 PM 更新

ネットによる通信革命が生んだ「ナノニッチ化」はいずれ、グリーン革命やハイパー産業革命へとつながっていくだろう

2年前に始まった景気後退は、忌まわしい9.11同時多発テロによってさらに悪化し、その影響は世界経済に及んでいる。しかし不思議なことに、不況にはつきもののとんでもない失業率、貧困、そして世のはかなさを嘆くポップバンドの登場が見られない。

 これは、通信革命が引き金ともなった目に付かない強い底流が――米国だけでなく――世界経済を支えているからだと私は考えている。

 以前の景気後退と今日の世界経済の状況との違いを示す主な要因をいくつか挙げてみよう。

 ハイパーコミュニケーションによって、極小のニッチ市場が急増した。

 携帯電話がユビキタス化し、個人経営の小規模企業にも、多くの秘書やサポートスタッフを抱える大企業並みに連絡が取りやすくなった。中古のソファ、自動車、コンピュータなどを売ろうとする人たちに、10年前ならその道のプロしかできなかった手法でコンタクトが取れる。

 これらはすべてインターネットのおかげだ。インターネットは、地理的に離れた場所にいる似た考えを持つ少数の個人を結び、極めて小さなニッチ市場として機能させることができる。インターネット以前の時代でも可能ではあったが(通信の遅延や手間という点で)高くついた。インターネットの登場で通信コストが格段に安くなり、価値のあまりない、極めて限定的な需要しか見込めない物品を少量取引する「ナノニッチ」が急拡大した(個人取引そのものは10年以上前から行われていたが)。

 そしていくつかの大きな技術革新がインターネットサービスに発展した。

 Googleなどの検索エンジンは、インターネット上の物品検索に革命をもたらした。7000台以上のLinuxサーバと自社開発した革新的なソフトの利用で、競合の検索エンジンで大きなボトルネックとなっていた検索スピードと検索ページ数の問題を克服した。当然のことながら、ナノニッチは有用な検索エンジン(または情報ディレクトリ)なしには機能し得なかった。

 しかしながら、XMLを利用してより多くの情報をWebコンテンツに注入し、それらをTopic Mapsなどを使って検索するという動きはまだほとんど実現されていない。知的検索への移行はいずれ必ず起きる発展の一歩ではあるが、現在は現行世代の検索エンジンが十分すぎるほどの機能を提供している。

 eBayなどのオークションサイトは、誰でも自分が持っている物(主に中古品)を販売できるグローバル市場を創出した。それまではゴミとして捨てるしかなかった、百万人に1人程度の関心しか引かないような低価値物品の売買が可能になった。売りに出す商品は、デジタルカメラで写した写真で簡単に紹介できるし、支払いは電子的に処理できる。そして何よりも、競売システムによって個人が商品を適切な価格で販売できるようになった。

 現在、多くの人がeBayを介した商品の売買で生計を立てており、スモールビジネスとして経営しているケースもある。インターネットがなければ、通信コストが高くつくこのビジネスモデルは成り立たなかった。

 ebuyer.comやAmazon.comをはじめとする電子小売業者は、私自身も個人的によく利用する優れたオンラインショップの例だ。実店舗で必要な販売部隊や店舗が不要なためコストが大幅に抑えられる。電子小売業は、必ずしもすべての商品に通用するとは限らないが、特にブランドがものをいう日用品、もしくは人に勧められて購入するタイプの日用品には効果がある。企業の株や石油、オレンジジュースといった日用品は、何百年も前から、購入者が念入りに調べなくても買っていたものであることを思い出そう。中でもAmazonは、節約したい人が中古品も手に入れられるという点で興味深い。


グリーン革命

 さて、「通信コストがなくなったおかげで、かつては捨てられるだけの運命にあった品々がどんどん取引されるようになっている」という点はご理解いただけたことと思う。これはもちろん、「中古品が新しい製品と競合している」という意味でもあり、メーカーはプレッシャーを感じていることだろう。そこで、この影響を受けている3つの例を以下に示す。

 音楽と映画:昔の曲にアクセスしやすくなった。中古品や在庫一掃品を低価格で取引できる。かつて流通によって消費者の手に届く商品をコントロールしていた業界の権力は、実際、完全に崩壊した。音楽バンドは自分たちの楽曲をしばしばネット上で直販し、アルバムの中の曲を無償提供することもある。これらはすべて、古くから音楽市場に君臨する従来型企業の脅威となるものだ。デスクトップビデオパブリッシングは今や当たり前で、ホームPCが架空のジャンボ機や自動車をレンダリングできるほどパワフルになったという事実は、米映画業界にとって決して良い兆候とは言えない。かつて編集作業には高いコストがかかったがこの障壁も取り除かれた。Cakewalk、FruityLoopsといったソフトで音楽作りがずいぶんと簡単になった。オーケストラを使った楽曲から、スクラッチやサンプリングを使った最新のハードコアミュージックに至るあらゆる音楽を作ることができる。しかもこれらはすべて、ミュージシャンを雇わくて済むばかりか、楽器の演奏を習わなくてもできてしまう。作曲者にはもはや、ミュージシャンは必要なくなっている。

 ソフトウェア:インターネット上で可能なハイパーコミュニケーションによって、世界中に散らばっている少数派が共同で、大規模なソフトウェア開発プロジェクトを手がけることがきるようになった。良く知られる例が、今日標準とされるMicrosoft Windowsに対抗するLinux OSだ。無償の知的資産であるLinuxは、今や腕時計からメインフレームに至るさまざまな製品で採用されている。これに加え、多くの他の無償ソフト(私が個人的に気に入っているのは、優れたプロジェクト管理ツールのMrProject、Microsoft Officeの対抗製品であるOpenOffice、Microsoft Visioと競合するDia、Outlookと競合するEvolutionなどだ)が従来のビジネスモデルを採用する企業に圧力をかけている。実際、Microsoftはデスクトップソフトの売上が将来減少すると予想している。ただここで覚えておくべきは、機能しなくなっているのは「伝統的なビジネスモデルだけ」という点だ。(Red Hatなどが進める)新しいビジネスモデルは、オープンソースソフトを、実証済みの統合型モデルに組み入れようというものだ。

 このビジネスモデルでは、アップグレードの売上が重要となりつつある。この分野では、ソフトの開発についてのビジネスモデルを探すのは難しい。おそらく現在、まだ存在しないのかもしれない。いずれ、何としても特定機能が欲しい企業や組織が、報奨金を出してその開発を希望するプログラマーたちを競わせるという報償システムが確立するのではないだろうか。インターネットからソフト開発の自由が開けたことで、人々がそのソフトを旧型ハードウェアに対応させるという2次的な効果が期待できる。これはリサイクルの点で有効だ。私の知る最新の数字では、1年間に埋め立て地に葬られるPCの台数は英国では100万台、米国に至っては実に1500万台に上っているという。旧来ハードへのソフトの対応促進で、こうした大量の廃棄物が減少へと向かってほしいものだ。

 自動車:一部には過剰生産、そして最近の技術進歩によって、高性能の自動車が驚くほど安く手に入るようになった。つまり自動車メーカーは自動車の買い替えサイクルがより長くなることを覚悟しなければならない。これはあらゆる製造業に横断的に言えることでもある。自動車メーカーは本質的に古いモデルと競争している。近いうちに、自由参加のカーデザインプロジェクトが誕生し、従来の自動車メーカーと競い合うことになるかもしれない(「OSCar Free Car Design」で検索してみるといい)。地球上のどんな小さな会社でも、自動車の新しい排気機構の開発の競争に参加できるような、素晴らしい世界がやってくるかもしれない。

 インターネットが生み出す注目すべき2次効果は、世界中の企業が抱える余分な富が小規模な会社に流れていくことだ。サッチャー元英首相はかつて繰り返し「小規模企業こそ経済の動力源」と言っていた。私の性には合わないが、今ではサッチャー女史の経済論の多くに同意している。おそらく今後、大きな会社が多くの種類のカスタマイズ製品を、それぞれ少量ずつ生産する「ハイパー産業革命」が現実のものとなるだろう。私が知る、これに最も近いビジネスの例は、カバーが変えられるNokiaの携帯電話だ。たぶんここでボトルネックになるのは大企業の研究開発部門だろう。だがおそらくIBMは、ナノニッチ化旋風にうまく乗ることができるだろう。同社は一枚岩的な企業構造から脱して、ある意味、自社の中にミニNasdaqを築こうとしているようだ。これとは対照的に、Microsoftのような一枚岩的な会社は今後それほど成長できないだろう。もっとも彼らも、IBMをイメージしながら会社の再構築にあたるだろうとは思うが。

 私の出した結論は、「古いコンシューマー製品が埋め立て用地に葬られることがなくなる上、個人のニーズに応じた製品が入手できるようになることから、将来は地球に、より豊かな緑が蘇る」ということだ。この結果、メーカーは新製品を投入しづらくなる(「これもいいが、やっぱり古いものが好きなんだ」という人が増えるだろう)。多面的将来の実現には新しいビジネスモデルが必要であり、Fordが採用した有名な生産ラインは古代遺跡のような過去の存在になるかもしれない。だがインターネットによって、本当に地球は救われるかもしれない。

※本稿筆者Jeff Daviesは1989年に電子工学の修士号を取得。英国政府出資のサイトで科学実験を自動化するプログラムの開発 (リアルタイムのグラフタイプのプログラム、Microsoft C、VB、QuickBasic)を手がける。Lotus認定デベロッパーとして7年間Lotus Notes (Lotusスクリプト、Microsoft Visual C++、SGML)でCRMシステム、インターネットコンテンツ管理、文書管理、その他の業務自動化ソフトを開発。現在は、子供との時間を大切にするため、主にソフト開発とは関係のない9-5時の職務に就いている。あいた時間で複数のプロジェクトを扱うHipparchus Systems Ltd.という会社を経営、この会社でいずれ一旗揚げたい考え。

Posted by sunouchi at February 12, 2003 9:08 PM