卒業式にはアオザイを着た。
真紅のバラが手で描かれた薄水色の生地に、シースルーの薄紫色の布がかぶさるデザイン。お腹の横をプチプチボタンで留めるので、フゥッと大きく深呼吸したらケンシロウみたいにブチブチッと行きそうで、お腹を引っ込めて息を小出しにしていた。自分が毎日これで生活することはあまり想像できなかった。
そのアオザイの国、ベトナム。
民族衣装というのは大概が観光客に見せるか何かの伝統行事で使うかで、その国に行ったからと言ってすぐ日常の中で見られるものではない。でもここでアオザイに出会うのは簡単だった。
カラフルな雨合羽とは対照的に、こちらで普段着られるアオザイは、女学生の制服らしきものが殆どで、白一色。普段使いに最も向かない形と色のような気もするが、彼女らは元気に自転車に乗って、裾をひっかけたり汚したりすることもなく(または気にせず)、動き回っている。お腹のラインを崩さず、美味しいものに舌鼓を打っている。
そのシルエットはどれも美しく、見ているだけで、普段Tシャツとジーパンに甘んじているこっちの体まで引き締まる思いがする。