February 13, 2003

CDの父、20年を語る

ZDNN 2003年2月7日 07:32 PM 更新

CD(Compact Disc)発売から20年余。音楽はもちろんコンピュータ、ゲームなど幅広い用途で今なおCDは健在だ。その開発を陣頭指揮し、80歳を超えた今もCDs21ソリューションズ会長を務める中島平太郎氏に、この20年、そしてこれからのデジタルメディアのあり方について話をうかがった

 ソニーが世界初のCDプレーヤー「CDP-101」を発売したのは1982年10月のこと。デジタル方式を採用し、ノイズのないクリアな音を実現したCDは、頭出し、リピート、スキップなど、当時主流だったアナログレコードやカセットテープでは考えられない使い勝手も提供。多くのユーザーに衝撃を与えた。

あれから20年。CDは、コンピュータ、ゲーム、映像と、その用途を広げ、CD-R/RWといったファミリーも登場。現在もなお、デジタル時代の記録メディアとして、事実上の標準の地位にある。このCDの開発を陣頭指揮したのが、当時ソニー常務だった中島平太郎氏(現CDs21ソリューションズ会長)だ。氏はCDの生みの親として知られるだけでなく、創生期のさまざまなデジタルオーディオに携わり、デジタルオーディオの神様とも呼ばれる。その同氏に、CDの20年、そして業界の現状と課題について忌憚(きたん)のない話をうかがった(中島平太郎氏略歴)。


20年、30年長く続くものを作りたかった

 「何年で廃れるようなものでは困る。できれば、20年、30年持つぐらいのものを作りたいという“熱意”は確かにあった」。

 中島氏は、ソニーとフィリップスが共同でCD規格を策定していた当時をこう振り返る。しかし、本当にユーザーに受け入れられるのか、そして、この規格が持つのかという点については不安もあったという。

 「長くあってほしいという希望はもちろんありました。しかし、20年はおろか、本当に(何年も)持つのかなという不安もありました。ただ、それだけに(長く持つものをという)デジタルのいろんなディスカッションを、ソニーとフィリップスで開発の段階にやりました。」

 そんな甲斐もあってか、CDは急速に普及した。通常、新しい規格が普及するまでかかる期間は、“10年”と言われている。しかし、CDが、当時主流だったアナログレコードのシェアと入れ替わるまでに要した年月は、わずか5年。CDは、通常の約半分という短い期間で急速に普及したわけだ。

 「82年は珍しくて売れたんですが、83年は、期待したほどなかなか伸びなかった。それで、どうなることかなと思ったら、84年に『D-50』という4万9800円のポータブルドライブが出て、ここからグッと伸びたんです。その後、87年にCDとアナログレコードのシェアが入れ替わりました」(中島氏)。


CD-Rはレコード協会にコテンパンにされた

 「CD-Rのコンシューマーへの普及は、CD以上に考えられないことでした」。

 中島氏は笑いながらこう話す。それもそのはず。現在でこそコンシューマーへの普及が進み、一般的に使われているCD-Rだが、CDの複製を作成できるとあって、当時から大きな波紋を呼んだのだ。

 「最初にCD-Rのシステムを作って日本レコード協会に持って行ったら、それはもう“コテンパン”。2年前にDATをやってあれだけ痛めつけられたのに、なんで、また来る――というわけです。しかも、DATはコピーだけですが、CD-Rは“クローン”ができる。DATよりもっとたちが悪いというんです」(中島氏)。

 CD-Rは、現在も違法コピーの“諸悪の根源”とまで言われ、PCで複製できないようにしたコピーコントロールCDまで登場。CDの売り上げ減の原因の1つとして大きく取り上げられるほど。状況は今とオーバーラップする部分が多いだけに、どういった対応を中島氏が受けたのか目に浮かぶようだ。

 しかも、中島氏はCD-Rの前に「DAT」を持ち込んだ“前科”があった。クローンを作るためのシステムじゃないといくら説明しても「信用してもらえなかった」と当時を振り返える。「当時は、(CD-Rメディアも)まだ3000円ぐらいしていましたし、CD-ROMドライブやCDプレーヤーにそのままそっくりかかるということは、それで、オーサリングシステムができるということ。これが大きなメリットですよと説明しても、DATで“悪名”のある僕が持っていくものですからね。信用しないんですよ」(中島氏)。

 そこで、中島氏がとった行動は、スタートラボという会社を作って、ライターとメディアを一元管理し、プロ用にのみ販売すること。それが1989年のことだ。「コンシューマーには当面卸しません。メディアもライターも僕が一元管理して、オーサリングシステムなどにのみ出すからそれで勘弁してください――といって、スタートラボという会社を作ったんです」(中島氏)。


27枚しか売れなかった

 何とかCD-Rの販売に踏み出した同氏だが、その販売が1年目から軌道に乗っていたわけではない。
 「初めの1カ月間で27枚しか売れなかったんです。8人もの人間を抱えていましたから、それはどうするかとずいぶん悩みました」(中島氏)。

 CD-Rを用いたCD-ROMのオーサリングシステムが花を開き始めるのは、2年目ぐらいから。「2年目ぐらいからやっと、ぼつぼつ使われるようになりました。例えば、特許のいろんなシステムとか、あるいはNASAですとか。アメリカを中心にCD-ROMの需要というのが相当増えまして、それでやっと、CD-Rのメディアの値段が下がってくるようになったんです」(中島氏)。

 面白いのは、CD-Rはオーディオではなく、CD-ROMの方が早く花が開いたということだ。「初めは、オーディオだけやっていたんですが、やってみるとCD-ROMの方が柔軟で、早い時期にいろいろなものに使われ始めました。まず、ゲームソフトで使われ始め、CDのオーディオがSCMSじゃなきゃいかんとかやっている間に、CD-ROMの方がグッと増えて行ったんです」。CD-ROMがゲームの配布媒体として使われ始めたのは1990年前後のこと。静止画を記録したPhotoCDなども登場。その後、動画を記録したVideoCDも規格化され、CD-Rを使ったオーサリング市場が拡大していった。

 また、1992年には、現在でもレコーディングスタジオで使用されている業務用CD-Rドライブの定番「CD-W900E」の販売も開始される。この頃から、音楽CDのマスタリング用やCD-ROMの制作現場などでCD-Rドライブが使用されるようになる。

 CD-Rが徐々に軌道に乗り、メディアの出荷枚数が1億枚ぐらいになるのが、1995年前後。中島氏は、「その頃には、僕は強気で毎年2.5倍は必ず行くよと言っておりました。実際、2.5倍行ったんですが、(当時は)みんなほら吹きだほら吹きだと言っていましたね」と笑いながら当時を振り返る。

 CD-Rがコンシューマー市場で急速に普及し始めるのが、1997年あたりのことだ。その頃には、当初、業務用だけだったCD-Rドライブもコンシューマー向けに販売されるようになり、価格も10万円を切り、7万円前後で購入できるようになった。「(ドライブの速度が)4倍、8倍ぐらいなってから、一気に来ましたね」(中島氏)。

 CD-Rがこれほどまでに普及した理由を、中島氏は「信頼性のいいメディアが値段がどれだけ安くできるかということだったと僕は思う。紙1枚買うのと同じ値段で買えるわけですからね。これは大きいですよ」と分析する。

 加えて、中島氏が大きな要因として挙げるのが「CDコンパチブルという思想」だ。「この思想が、普及を非常に滑らかにしたんじゃないでしょうか。要するに、CDはみんな味方ですから。音楽CDにかかる、CD-ROMにもかかる」。

 この思想は、もちろん、中島氏がこだわったものだ。「当初、反射率が65%から上がらなくて、(開発者たちからは)もう65%で勘弁してくれと言われた。それを、CDの反射率は70%だ、CDのコンパチにならないメディアに僕は興味はないよと言って、ずいぶんがんばりました。(開発する方は)泣く泣く、いろいろやっていましたよ。言う方は簡単なんですけどね(笑)」。


あと5年はいける

 CD-Rは、メディアの出荷枚数も年々増加を続け、現在の出荷枚数は、年間約70億枚。メディアの単価も、中島氏が、スタートラボを始めたころの1枚3000円と比較すると、1枚50円前後と60分の1まで下がった。しかし、ここ1、2年は出荷枚数も横ばい。それでも、中島氏は、まだいけると話す。

 「CD-ROMで使えるところがまだまだたくさんあります。それをうまく開拓していけば、今からでも2.5倍行くよ、と言っているんですけど。さすがに2.5倍はもういかんようですけどね。それでも、少なくとも減ってはいません。これは、もう100億枚まで行かなきゃ嘘だと言ってがんばっています」。

 中島氏の現在の目標の1つが、このCD-Rメディアの出荷枚数100億枚だ。「(100億枚は絶対いくように)やっぱり、最初の設立精神に戻って、もう一度、CD-Rをうまく使ういろんなビジネスモデルを作っていけば、CD-Rでいけるところはずいぶん多いと僕は思います」。

 では、どんな可能性があるのだろうか。「要するにさっともっていって、さっと書けるという意味からいうと、CDプレーヤーの累計出荷台数12億台とCD-ROMの14億台がやっぱりものをいいます。どこに持っていても使えますもの。この前、イラクまで使っていたじゃないですか」。

 中島氏によると、音の世界には「25年説」があるという。それは、エジソンの発明以来、25年単位で新しいものに切り替わっているというものだ。最初の機械蓄音機が25年で電気に代わり、やはり25年経ってステレオに変わった。そして、それ(ステレオ)から25年たってデジタルに変わった。CDは現在20年。「これからいくと、あと5年は、持つ勘定になる」。

 加えて中島氏は、今後どう変わるかわらないと前置きした上で、今からの20年間も、音はデジタルで基本は変わらないと話す。

 「マルチチャンネルとか5.1chとかあるのかもしれませんが、それは、応用動作であって、デジタルステレオというのが基本にあるんじゃないかと思う。デジタルの音を今のやつ(CD)に入れるのか、赤(DVD)に入れるのか、ブルーに入れるのか、あるいは半導体に入れるのか。そういう違いは、いろいろあるけれど、中身は、すべてデジタルで入れるんですから、変わりないと思うんですよね」(中島氏)。

 しかし、中島氏は、20年たったデジタルについて、いい意味でも悪い意味でも副作用が出てきたという。「せっかくCDで20年間、そこそこいい音質で、しかも使い勝手もよく、音だけでなくデータも絵も入るというシステムを作ってきた。でも、それと同時にデジタルにしたために、機能重視になりがちで、いろいろな面で、副作用がでてきました」。

 中島氏のあげた問題の1つが、データ圧縮。「圧縮オーディオ」の話だ。そして、もう1つが、コピーコントロールCDの登場で物議を醸し出している「著作権に関する問題」である。

 「何に入れるのかということよりも、ソフトウェアおよびユーザーが満足できるようなシステムということでは、一定のスクランブルならスクランブルをかけて、きちんとした形で、ソフトが提供され、それをやはり適当な対価でもってユーザーが楽しむというシステムを作ることが、今後の20年の課題じゃないかと僕は思うんですよ」。

 この点については、次回で触れたい。

CDs21ソリューションズとは?

 中島平太郎氏が会長を務める「CDs21ソリューションズ」。これがどういった団体なのか、簡単に紹介しておこう。

 CDs21ソリューションズ(シーディーズ・ニジュウイチ・ソリューションズ)は、CDファミリ-を核としてその周辺テクノロジー及びコンテンツ製作に関わるビジネスを推進する70社あまりで構成される業界任意団体だ。

 1991年に発足し、CD-iやビデオCDを推進していた「マルチメディアCDコンソシアム(MMCD)」と、1996年に発足しCD-R/RWを推進していた「オレンジフォーラム(OSJ)」という2つの団体が発展的に解消・合併して2001年4月に発足している。

 設立発起人は、ソニー、太陽誘電、TDK、電脳商会、凸版印刷、日本ビクター、日本フィリップス、パイオニア、ハイコム、松下電器産業、三井化学、ヤマハ、リコ-など13社。

 CDs21ソリューションズは、(1)CDプラットフォームにおける技術とコンテンツの融合を図り且つ将来技術の探求をすることによって、産業界のより一層の発展を追及すること、(2)人々の生活が豊かになるような新しいAV文化の創成を目指すこと、(3) 知識、情報を共有する環境を創り、互いのビジネスの発展を促進すること――の3つを活動指針に掲げている。

 また、CDs21ソリューションズは、総会、幹事会、事務局を運営の母体とし、Technical Committee(TC)、Study Committee(SC)、Communication Committee(CC)を活動の主体として行われている。TCには、CD-R、CD-RWそれぞれの物理部分に関する2つのテクニカルワーキンググループと論理部分に関するテクニカルワーキンググループの3つがある。

 TCでは、CD-RやCD-RWメディアおよびドライブとの互換性試験などが行われ、現在は、カード型ディスク「オプティカルカード」のガイドライン策定の検討なども行われている。


ZDNN 2003年2月13日 07:29 AM 更新
「著作権」と「音質」――CDの生みの親が呈する苦言

CD規格の生みの親である中島平太郎氏は、CDが今抱える大きな課題として「著作権」と「音質」の2つを挙げる。現在のアプローチは必ずしも正しい方向に向かっていないとする同氏は、何が問題で、それをどう解決すべきと考えているのだろうか


 「圧縮オーディオ自体(の音質)は、そんなに悪くない。CDに比べれば確かに悪いですが、データ速度が10分の1だということを考えれば、まあ、“そこそこ”。これが、いったんパソコンやインターネットに入ると、なんであんなに悪くなるか分からない」。

 CDが登場し、デジタルになって20年。そのCDの生みの親である中島平太郎氏(元ソニー常務・現CDs21ソリューションズ会長、略歴)が指摘するデジタル化の副作用の1つが、圧縮オーディオの“音”の問題である(インタビュー1回目)。

 デジタルになって、利便性は大幅に向上した。小型化、低価格化も進んだ。通勤や通学の途中で音楽を楽しむことはライフスタイルの1つとして定着しており、最近ではCDだけでなく、MDやMP3などの携帯用圧縮オーディオプレーヤーの人気が高い。

 しかし、音は軽視される傾向にあると、中島氏は手厳しい。「機能重視で『音は聞こえればいい、それよりメールが送れるといったほかのメリットが優先』ということになっているんではないでしょうか。圧縮技術自体は、非常にいろんな技術を使っていて、ここまで圧縮しても、(音は)これだけしか悪くならない、というふうになっている。これが守られていれば、そこそこの音になるはず。(機能優先のために)いろいろな面で、音が犠牲にされてしまったのではないでしょうか」。


音質は確実に落ちている

 せっかく良い技術を作ったのだから、「それをうまく生かしてくれればよいのに……」とも話す中島氏。

 中島氏のこの思いは、昨年の12月11日、CDs21ソリューションズの定例ミーティングで行われた講演にも現れている。同氏はこのとき、「オーディオの現状―明るい未来に向けて―」と題した話をされている。そのときのエピソードを笑いながらこう紹介してくれた。

 「(タイトルに)『オーディオの現状―明るい未来に向けて―』とありますが、最初は『夢は遠のく』だった。そうしたら、建設的ではないよということになって、書き直したんです。“圧縮オーディオの盛況”とある部分も、そこそこの音質だけど、機能優先で“音軽視”、と書いたのですが、やっぱりそれも建設的でない、『かつ重視』と書いてくれと言われました(笑)」。

 「デジタルというのは、“音が聞えるよ”(というレベルのもの)ということになると困るんです。やっぱり、“そこそこいい音”でないと。それが、どうもネットの便利さ、パソコンの便利さというもののために、音が今ひとつ軽視されている。設計者がもっと頑張って、それを軽視しないものにしてくれると、もっといい音で、しかも、いい機能で聞けると思うんです」(中島氏)。

 こと音質という面でいうと、音楽CD自体の音質も、一時期に比べて落ちているのではないかという声が多い。中島氏は、それも心配されている様子。

 「CDは一時期よりも音が落ちています。それは落ちてますよ。最初のころの感動がその後、お座なりになっているのではないか」(中島氏)。

 「僕らが82年10月に『CDP-101』で出した音は、今でも聞いてみるとかなりいい音がしているような気がしています。今のやつは、“デジタルだから”“CDだから”といって段々段々、ここを削り、あそこを削って、となっている。CD自体、もうちょっと頑張っていい音にしてくれると、楽しみが増えると思うんです」。


著作権問題――悪いのは「CD-R」ではない

 中島氏がデジタルの副作用としてもう1つ挙げるのが“著作権”に関する問題。レコード業界からは現在、ネットオーディオとCD-Rが、違法コピーを生む“諸悪の根源”と言われており、PC上での複製を不可能にするコピーコントロールCDまで登場した。

 しかし、中島氏は「それは違う。CD-Rの功績は大きい」と異を唱える。

 「ほんとはね。CD-Rだっていいメディアなんです。日本レコード協会は、さかんにネットオーディオとCD-Rは悪の根源だというようなことを言われますけど、そうではない」(中島氏)。

 同氏は、CD-RとCD-ROMは、2つの歯車のように発展してきたという。「悪い方にばっかりとっていかれるのですが、あれ(CD-R)がなかったら、CD-ROMは発展していません。CD-Rは今、年間70億枚、トータル300億枚ぐらいになったのですが、こんなに増えたのは、CD-ROMがあったからですし、CD-ROM自体も70億枚ぐらいある。それもCD-Rがあったからだと思います」。

 「そういったCD-Rの“功績”を、誰も言ってくれない。だから、私は盛んに言っているんです(笑)」。

 加えて、中島氏は、CDの売り上げが低下していることを、CD-Rやネットオーディオが悪いと決め付けるのはおかしい、メーカーの努力が足りないのでは、と切って捨てる。

 「CDの売り上げが5%ずつ毎年下がっていくなんていうのは、ソフトウェアもハードウェアもなにをやっとるんだと思うんですよね。両方とも努力が足りません」(同氏)。

 90年代後半、CDが爆発的に売れた時期があった。たくさんの大ヒット曲が生まれ、販売枚数が100万枚の超える音楽CDも続出した。しかし、中島氏は、その時に、先を見据えて努力する必要があったはずと指摘する。

 「今頃になってあわててもだめですよ。CDだけでそんなに長持ちする訳がない。(CDだって)12センチあり、8センチあり、いろんなメディアあり。そのバラエティを今後も持っていかなきゃ」。

 最近では12センチのマキシシングルが増えているが、「それも、12センチで作ったほうが楽でいいから。それじゃ、発展しません。ワンパターンではだめですよ。必ずどこかで破綻します。やっぱり、マルチパターンで行かなければ。そのためには、努力をして、頭をちゃんとひねらなければいけませんよ」(中島氏)。

 中島氏は、そういった現状の打破のためにも、CD-Rをもっとうまく使えばいいのではないか主張とする。「CD-Rは、悪い面ばかりが強調されているんですけどね。諸悪の根源なんて言わないで、もっとうまく使ったらいい。ソフト側とハード側が一緒になって、別の角度から使う方法を考えたらいいじゃないかと僕は思うんです」(中島氏)。

 「何に使うかというと、それはいろいろ。コピーを減らすということなら『セキュアCD』を導入するとか。ただし、今のCDにスクランブルをかけて、聞えなくするだけでは、僕はだめだと思う。同じものにスクランブルかけたら、やっぱり、値段は下げなきゃ。そうでなくてはユーザーメリットはありません」(中島氏)。

 スクランブルをかけたりするのだったら、同時にユーザーメリットとして「新しい試みがあってもいいじゃないか」とも中島氏は指摘する。

 一例として同氏が挙げたのは、「プリペイドディスク」である。「例えば、3曲まではディスクに書き込める。その3曲は、もちろん、ユーザーが好きなものを選べる。ただし、3曲分の金額はいただきますよ、といった仕組み。ちょうどプリペイドカードと同じようなものですが、そういったものがあってもいいんじゃないか。実は、CDs21の会長としては、このプリペイドディスクをやりたくてしょうがないんですよ」。

 もう1点。中島氏は、12月6日の『音の日』の有効活用をあげた。「バレンタインデーというのがありますが、あれはチョコレートを配ったりしています。12月6日は、エジソンが最初に記録再生をやった日で、その日を『音の日』にしています。その音の日には、小さなCDを恋人同士で配るようなシステムでも作れれば、それでも売れるのではないか」。


早く新しいセキュアCDを出すべきだ

 「1回目の書き込みはいいけど2回目はだめとか、パソコンでかからないようなCDを出すとか、ネットではかかるけどプレーヤーではかからないとか、最近ではいろんなことがあります。しかし、CDプレーヤーは累計12億台。CD-ROMドライブは14億台、現在存在しています。それで再生できないようなものを出したら、僕はだめだと思うんです」。

 現在の音楽流通を取り巻く状況についてこう分析する中島氏。これには、同氏がCD-R規格の策定時にこだわった「CDコンパチブル」の思想がうかがえる。そして、例外があるような、そんなメディアは長続きしないという思いが強く感じられる。

 「CD-Rでも(反射率が)70%ないと再生できない人が出る。今のコピーコントロールCDは、1枚ぐらい、かからないのがあってもいいじゃないかという思想がだめだと僕は思う。(CD-Rは)65%の反射率でも、(多くのドライブで)かかるんですが、それはだめだと。それは、今でも同じ。コピーコントロールCDで怖いのは“かからないこと”。やっぱり、(すべてのドライブで)かかるようなメディアじゃなければ、長続きしないですよ」。

 現在、少しずつだが業界で問題視されつつあることがある。それは、「コピーコントロールCDだから」という理由で、CDを買わない人たちが出てくることだ。再生できない可能性があるから、ユーザーは不安になる。だから買わない。

 中島氏が指摘する点は、まさにそれに通じるもの。デジタルになって20年。せっかく手軽に音楽を楽しむことができるような時代になったのに、下手をするとそれが根底から覆されるかもしれない。そんな怖さが、コピーコントロールCDにはある。

 それゆえ、中島氏は、CDs21ソリューションズの会長としてこう苦言を呈す。「だから、早くきちんとしたものを作ってほしいんだ。どこというのではなしに。それは時間との勝負。早く作るべきだと僕は思う。(その際には)やっぱり、例外を作ってはいかんですよ。これならかかるけど、これはかからないよ、というようなものは、本命じゃない」。

 中島氏は、CD規格を作ったソニーとフィリップスがやってくれるのが、できれば一番とも話す。「CDで苦労したのはソニーとフィリップス。だから、その両者が、何らかの格好で、今までのやつとコンパチあるセキュアCDを出すことだと思うんです。そうするのが、ユーザーも一番喜ぶと思う。そのかわり、ユーザー、ハードメーカー、ソフトメーカーそれぞれのメリットをどうするということを、そのセキュアCDでよく考える必要がある」。

 「せっかく、CDで20年。ここまで培ってきたインフラをそのまま使いたい。その上で、なおかつ、新しいソフトウェアも喜べば、ハードウェアも喜ぶ、ユーザーも喜ぶようなシステムを早く作らねばならない」(中島氏)。


高品質なものを伸ばす。それが次の20年の鍵になる

 「きちんとしたスピードできちんとしたものを書けるようなものを作るとか。オーディオ用は何倍速までで、どういう品質を保証したCD-Rを使うとか。CD-Rの量を追うだけではなく、今度は質をある程度考えてもいいじゃないかと思う。そういうことによって、CD-Rをうまく使えば、CDはきちんとした格好であと20年はいけますよ」。

 CD-Rの今後についてこう話す中島氏。CD-Rは現在、ドライブもメディアも低価格化と高速化の弊害で品質が悪くなりがち。中島氏は、この点も気にかかっている様子だ。

 そこで、同氏の提案するのが、2極分化である。「メカとメディア両方とも、普及品と高級品の両方をやっていかないといけませんね。そうしないと(年間出荷枚数)100億枚になりませんよ。市場も成熟化したので、メディアもライターも2極分化させ、それでやっぱり100億枚を突破するというのが1つの大きな目標だと思います」。

 だから中島氏は、「より音がいいメディアがほしい。そこはぜったいそこはやらなければだめです。40倍速なんて、そんなのどうでもいいです。やっぱり、音がいいメディアは、絶対作らねばならない。ドライブについても同じです。全く同じです。900Eの後継を作るべき」と力が入る。

 ただ、「(単純に)900Eの後継と言い切ってしまうと若干の語弊があるかもしれませんね」と中島氏。同氏がいうCD-W900Eは、当時130万円。それを考えるとさすがに購入できる人は限られてしまうからだ。それでもCD-W900Eぐらい品質のよいドライブを作ってほしいという思いだけは確か。「せっかくCDs21の中には、ドライブメーカーさんも入っているわけで、そこでやっぱり、倍速を下げてもいいメカを作ってもらわないといけないですね」(中島氏)。

 メディアも同様。現在では1枚8000円というリコーの業務用メディアがもっとも高品質とされるが、やはり一般ユーザーが購入するには高すぎる。

 「リコーさんに1枚8000円のメディアがありますが、それは一桁違いますよ。せいぜい500円ぐらいなもので、やっぱり、本当なら200、300円ですよね。それなら、50円で10枚買うよりも、200円で2、3枚かって大事に育てるということだってありえると僕は思うんですよね」(中島氏)。

 「いいオーディオ、いいデータの記録媒体として、信頼性の高いものと普及品とをぜひ2極分化して両方やっていきたい。将来に渡って栄えていくには、2極分化の“上の方”をどれだけ広げられるかにかかっている」(中島氏)。

Posted by sunouchi at February 13, 2003 3:53 PM