January 16, 2003

夏の思い出

昨年の夏は、よくひとりで海に行った。
別に泳ぐわけでもなく、ただごろごろしていた。

ある徹夜明けの朝は、三戸浜に行った。
コンタクトもはめず、平日の通勤ラッシュとは逆方向の京浜急行で
三崎口まで行った。三戸浜は三崎口の駅から歩いて20分ほどである。

三浦半島の先端は台地になっていて、水はけがよいからか
大根やスイカが栽培されている。
パンジーは害虫を寄せ付けないということで、
畝と畝の間にパンジーがうわっていたりする。

一面の畑で、また台地なので視界の先は途中できれる。
暑い日差しのもと人もまばらなので、
どこぞの島に来たような感じである。
実際、交通の便も悪いので、陸の孤島のような存在なのだろう。

海までの道はぐねぐねと曲がっており、途中堆肥がとても臭う。
堆肥の強烈な臭いは、郷愁など誘うわけがなく、ただ臭い。

浜には二、三軒の出店があるだけで、海水浴客はひとりもおらず、
近くのおじさんがごみを燃やしているだけだ。
ぼくは立ち小便をし、パンツでざぶりとひと泳ぎし、
そのままガーガーといびきをかいて眠り出した。

二時間くらい眠り、のどが渇いたので
近くの道路沿いの自販機で缶ジュースを買った。
横には農家のおばさんが日陰で静かに世間話をしている。

目の前に神社の鳥居があったので、奥へと入っていった。
野放図に木が生い茂っていたので、境内は真っ暗で涼しかった。
逆に帰りは暗闇の先に鳥居越しに真っ青な海と砂浜が見えるわけで、
トレンディーなことに恐怖心を抱く、バブル後世代のぼくも、
わくわくしながら参道を戻った。
そこにあるのは先ほどまで寝転がっていた浜辺だったが、
それでも妙に興奮した。


ぼくはかつてここら辺にきたことがある。
大学のヨット部の合宿所がこの近くにあったのだ。
体験入部で一、二泊した記憶がある。
先輩たちはクルーザーに乗せてくれ、逗子マリーナまで行った。
普段陸からしか見ない場所を、海側から見るのは新鮮だった。
また、逗子は存外近いのだな、と思った。

先輩は気持ちよさそうにタバコをふかし、海に投げ込んだ。
「海の男がそんなことしていいんすか」
と聞くと、
「海の浄化作用を馬鹿にしちゃいけない」
と返された。理不尽さが、男前であった。

本題はここからである。
ヨット部には最初の体験入部しか参加しなかった。
そしてなんやかやと大学生活は過ぎてゆき、二年生になった。

ある日、大講堂でひとり授業を受けていると、
後ろの席の男が声をかけてきた。
「きみ、あのneiくんでしょ?」
相手との面識はない。あのなんて言い方をするくらいだから、
何かで有名なneiということなんだろう。うわさのnei。
その頃はただひたすら勉強をしているだけだったので、
おもわぬ出会いに、少々期待をした。もちろんいい意味での。

「なんで俺のこと知ってんの?」
と訊ねた。内心少し得意げに。ちょっとした有名人気分。
すると彼はすまなそうに答えた。
「あの、う○この...」「は?」
ここからは、彼から聞いた話である。

ヨット部の合宿所はとてもぼろかった。
そして、そこのぼっとん便所は流れなかった。
合宿所ではまずはじめに、
そこでは小のみ、大は他の大学の合宿所までトイレを借りに行っていたせ、
というようなことが先輩よりきつく言い渡された。

ヨット部はさすがに体育会のはしくれで、食事などは気前よく大量に食べさせてくれた。
食べなれない量のごはんを食べたぼくは、夜中にごく健康的な便意に襲われた。
深夜なので他の合宿所に行くのは申し訳ない。
めんどうくさくなったぼくは、ええいばれるもんかと、
そのトイレで禁じられた脱糞をしてしまった。
もしかすると、小のみということを寝ぼけて忘れていたのかもしれない。
案の定悪いことはすぐばれるもので、すぐに犯人はぼくだとわかったらしい。
当の犯人はヨット部になぞ入らず、キャンパスライフを謳歌していた。
禁じられた脱糞のことなどすっかり忘れて。
しかし当人が知らぬところで、ことはすすんでいた。
ぼくの忘れ形見はその後約二ヶ月はそこに佇み、
部員達は放尿のたびに、neiが少しづつ溶けていくのを眺めていたという。
なんと二ヶ月も、ぼくのそれは視姦され続けたのだ。スカトロ的要素もある。
その筋の人には答えられない状況だろう。しかしぼくは違う。
当然伝説好きの体育会部員が黙っているはずもなく、
その後新入部員がくるたびに、トイレの使い方を説明する。
もちろん、neiという新たな伝説も交えて。
で、当然のごとくその伝説の男を見たいということになり、
親切でやさしい先輩は、ほら、あれがneiだよ、と教えてくれるのである。

それを聞いたとき、あまりの衝撃に恥ずかしさを通り抜けた。
あまりに予想外なことに、防衛本能から開き直ってしまった。
そして、平然としていた。


今でもたまに、夜布団の中で思い出す。
そしてあまりの恥ずかしさに、布団にくるまり、ウッとうめく。

海の浄化作用を語った先輩は元気だろうか。
未だに、合宿所の説明ではぼくの名前が出るのだろうか。
みな、あいもかわらずヨットを楽しんでいるのだろうか。

海の思い出。夏じゃなくて春だ。

Posted by nei at January 16, 2003 11:18 PM | TrackBack