「洗ったらよく色落ちしそうなタルタルの服」を上も下も買った。即席でカオサンに溶け込む旅行者の出来上がり。ゲストハウスに洗濯物を全て託して、町へ出る。路上では様々な食べ物が売られているが、その中で、箸を一本持ってスイカと格闘している男が目に付いた。彼は何と、売り物のカットスイカの種の1つ1つを、箸でほじくり出している。こちらのスイカの種は未発達な白くて軟らかいものが多い。その全てを、一心不乱に取り除いているのだ。何だか手垢にまみれているようにも見えたが、いい、あなたの心を買った。カオサン風の日本人がスイカをかじりながらカオサンを外れた普通の町を歩く様子は、周囲の普通の服装のタイ人の中でかなり浮いており、今日の服装を後悔した。
夜、宿へ戻ると、見事なまでに漂白され(色物もね)ピチッと畳まれた洗濯物が用意されていた。てっきりシワシワのまま返されると思っていたので、朝のスイカ男含め、その仕事の丁寧さに感心した。お礼を言うと、インド人オーナーは気を良くしたのかチャイをご馳走してくれると言う。一階へ降りていくと、白人1人と黒人2人が白熱した討論の真っ最中だった。そう、この宿、何故だか中年の長期滞在外人ばかりがいる。彼らの話題は、連日のテロニュースに触発されたのか、宗教。ドイツ生まれで今はオーストラリアに在住、「失業届け」を役所に提出することが唯一の仕事だと豪語する白人は私の姿を見るなり、"Japan is the only country which doesn't have any religion!"と褒めるように言った。それを聞いた黒人が、人に非ずと言った表情で私を見つめる。宗教(Christianity)は"all"だと言う黒人と、"evil"だと言う白人と、妙な笑みを浮かべたオーナーの間に挟まれて、とてつもなく長い夜を過ごした。