October 27, 2006

吉林省旅行の続き6(最終回) <最後の冷や汗>

さて、だんだん時間が経ちすぎてだれてきたような気もするので、今回でこの北朝鮮話は完結させます。

前回は、昼休みが終わって喜んで橋まで行ってみるも、中国に戻るのに書類が必要なことが発覚し、それをもらうために、北朝鮮の出入国審査の場所へ戻るところまででした。

……で、その在日朝鮮人のおじさんがまだそこにいてくれることを願って、急いで出入国審査の建物の中に戻ると、ほっ!彼とその同行者の朝鮮族の中国人と思われる人物が書類を出したり、荷物を検査していたり、というところでした。ただ、おじさんは姿が見えるものの、すでに奥で荷物検査をしていたので、まだ近くに残っていた人の良さそうなその同行者(以下、おじさん2)に、助けを求めました。彼が中国語と朝鮮語の両方を話すのが救いでした。

「どうも、中国に戻るのに書類が必要らしいんです。でも、ぼくらが朝鮮語が話せないので、通訳してもらっていいですか?」

とお願いすると、さわやかにOK。で、とりあえず必要な書類をもらってペンを借りて、必要事項を記入。すると、荷物検査をしていたおじさんが、ぼくらを見てびっくりしてこっちにやってくきました。心配そうに、

「どうしたの?橋、渡れなかったの?」

「そうなんですよ。書類が必要だとかで。でも、彼に助けてもらって、この紙はもらったので、大丈夫だと思います」

記入し終わり、窓口にその紙を出す。その対応にあたる審査官がかなり感じが悪そうに見え、しかも、紙を出しても全く反応せずに、他の書類を見ながら隣の審査官と何か話している。言葉も分からず、状況も状況なため、このとき特に、ぼくはビビッてしまいました。そして、おじさんが横から一言。「物書いてるとか、ジャーナリストだとかはいいなさんなよ」。

審査官がなかなかぼくらの紙を見てくれないので、おじさん2に、ぼくらの書類を処理してくれるように再度頼んでもらうと、やっと、めんどくさそうに、紙を取り上げ、覗き込み、そして何かをおじさん2に聞いてていました。内容は全く分からないものの、いずれにしても、ハンコが押され、話が進んだ……。とりあえずほっとしました。

「これから2階に上がって、もう一つハンコをもらわないといけないので、この階段を上がって」

と言われ、ここで、ついにおじさんらともお別れ。

「気をつけて帰ってね」

「ほんとにお世話になりました。お仕事がんばってください」

などといった会話を終え、ぼくらは2階に向かいました。おじさんとはたった2時間話しただけだったのに、この状況のせいで妙に親近感を覚え、彼が奥に入っていくのを見送りました。

2階。出国審査をしている人物が仕事をしている個室に直接おもむき、ハンコをくれ、という。その人物は明らかにぼくらのこれまでの状況を何もしらなそうだし、ぼくらもイレギュラーな場所から話しかけているため、これはまた分かってもらうのに一苦労かな……と思いつつも、とりあえず中国語で

「1階の人が状況知ってるから、電話して聞いてみてくれ」

といってみると、通じた!そして彼が1階に電話をかけるのを見てほっとしました。彼は電話を切るとすぐに、もう一つハンコをくれたので、さらに安堵感が拡がりました。そして、もう一目散にそこを離れようとすると、また別な、横柄な感じの係官が寄ってきて、ぼくらの紙を見て、ここにサインがいるからちょっと待ってろ、といって奥に消えていったんです。その頃には、ほんとに早くそこを出たかったので、え、、、、まだ何か必要なのか、、、とがっくりドキドキという感じでした。

で、彼はそのまま奥に消えたきり帰ってこないので、「もしかしてここで1時間待たされる、とかそういう展開もありうるのかな」と、素子と話したり。。。そのとき、携帯の電源を切っていたものの、携帯がポケットに入ったままであることに気づき、もし荷物検査されたらまずいんじゃないか、ということを思いついて、ほとんど意味がないものの、すかさずバックパックの横ポケットに入れ替えました。

そんなことをしていると、さっきのサインの人物が奥をうろうろしているので、もう早くしてくれ、という気持ちが高まり、思わず

「早くしてくれませんか?まだですか?」

と声をかけた。すると、ぼくらの隣で、同じく係官が来るのを待っていた中国人の夫婦らしき二人(彼らは北朝鮮から中国に戻ってきたところ)が、

「あまり余計なことを言わないほうがいい」

とすぐにぼくに言ったので、彼らも北朝鮮の係官にはビビッてるんだな、というのが分かりました……。しかし、結局サインをもらえたのはそれから数分後でした。係官が来て、ぼくらの紙をみると、サインをしながら何か聞いてきたものの、よくわからないので、とにかく、「北朝鮮には入国していない、いまから中国に戻るだけ」と言って、さっさとその場所に別れを告げ、急いで階段を下りて、建物を出ました。。今度こそ、本当に出国できるんだという確信を持って。

そのとき気分は本当に晴れ晴れ!そして直接橋に向かうと、建物の前に止まっていたバスの中の人に呼ばれ、

「橋はバスで渡るんだ。歩いちゃ渡れないよ」

と。それで、こっちに来るときに自分たちが橋を歩いて渡れたのはやっぱり何かがおかしかったようだということを確認し、とにかくそのバスに乗って、橋で書類を渡し、ぼくらは再び橋を渡って、中国側に戻ったのでした。

中国側の大地に下りると、なんだか故郷に戻ってきたような気分になりました。そして、再び中国の入国審査を済ませると、その外には、待たせっぱなしにしていた、タクシーの運転手が予想外の笑顔で迎えてくれました。きっと怒ってるだろうな、と思っていたのに、ほとんどそんな様子もなく……。

――このちょっとした北朝鮮訪問で、北朝鮮について分かったことなど、何一つありません。ただ一番体験として印象に残ったことは、北朝鮮という国について、自分はほとんど何も知らないのにもかかわらず、いかに自分が北朝鮮に対して恐怖感を抱いていたか、ということです。昼休みで国境が閉まっただけなのに、ただハンコを待っているだけなのに、理不尽なことは何一つなかったのに、しかし自分にとって、正直この三年間で1、2を争うほどのビビリ体験だったといわざるを得ません。メディアから流れてくる情報を、自分なりに一歩引いて見ているつもりでも、やはりそういう情報が、そのまま自分の恐怖感として染み付いてしまっていることを身をもって知った体験でした。

これで、北朝鮮ミニ訪問記は終わりです。

以下はこの吉林旅行での他の写真。

IMG_5572.jpg
(北朝鮮の国境まで連れて行ってくれた車のメーカーはなんと「五菱」!四川省で一度見たことがあっただけの幻のメーカー(?)。これは車内のプレート。左上のマークの下「五菱汽車」)

IMG_5635.jpg
(長距離列車の待合室の様子。これは北朝鮮から戻ってきた夜、トゥーメンという町から長春へ向かう時)

IMG_5648.jpg
(吉林省長春(旧満州の首都だった都市)では、いたるところにこのようにネギが干してあった。北朝鮮の話とは無関係)

IMG_5569.jpg
(中国の東北地方(吉林省の辺り)は、どの店に入っても白米が本当においしくて感激!上海、昆明では、どこでもご飯が基本的においしくないので……。)


Posted by ykon at October 27, 2006 2:16 AM | トラックバック
コメント

お久しぶりです!
どきどきしながら拝見してました。。。無事でなによりです。
ここからは私見ですが
ゆうきさんは何もわからなかったと書いてますが、
見た景色とか、聞いた言葉とか、沸いてきた感情とか、それらの経験がすべてなんだと思います。
今後起こりうることの中で、一番起こってはならないのは戦争ですが、戦争は瞬間の判断の連続ですから規律正しいことがイコール強さにはならない気もします。
なんか日本も「原爆」を夏の季語のようにして、深いところで語ることをしてこなかったので、今世界的にも歴史的に見ても岐路に立っているような気もします。

Posted by: ゆうき(大坂) at October 30, 2006 11:05 AM

ご無事のご帰還何よりです。
上海でお会いしているので、安心はしているのですが、ブログを読むとなんだかドキドキしてしまいました。
中国と北朝鮮が陸続きなんだなあと実感しました。
日本にいるときは近くて遠い国なのに。そうそう、ジャピオン
見ましたよ。なかなかいい文章で。川島さんには笑っちゃいましたが、何年か先の自分達かも、、と感慨深いものでした。
仕事中にも我が家を想像させてしまってごめんなさいね~~~。ではまた。

Posted by: ishijima at October 30, 2006 2:42 PM

>ゆうきくん

どうも~久しぶり!
そうですね、確かに何も分からなかったとはいえ、それなりに感じたことがあって、貴重な体験だったとは思ってます。また、こうしてその土地を自分の足で踏むことで、ぐっとその国が身近な存在になって、その問題への興味が深まるっていうのも、重要な効果だなとは思います。それが実際に旅をすることの大きな意味の一つかな、と。

日本は世界唯一の被爆国であるからこそ、核兵器は絶対に持たないって言うことが他の国以上に説得力を持つはずで、それだけは変えてはならないと思うのに、「北朝鮮が持つなら日本も核保有について議論する必要がある」って言い出してしまっては、結局「アメリカが持ってるから自分たちも」って言ってる北朝鮮を全然非難できなくなるわけで、ほんとに今の政権のそういう発言には危機感を覚えてしまいます。

それから、国連で北朝鮮の非難しながら常任理事国がみな(だよね?)核を持ってるっていう大いなる矛盾をどうにかしないと先に進まないなって気がします。北朝鮮への非難と同じぐらい、「自分たちが核を捨てることはいやだ」っていうアメリカへの非難を世界がしていかないとだめだよなあって思います。

>石島さん

読んでもらってどうもありがとうございました。やっぱり陸続きの国境を越えるっていうのはなんかロマンがあっていいなあっていつも思います。旅の中で最も好きな光景の一つです。日本にないからかもしれませんね……。ジャピオンの北九州エッセイの方は、フィクションなため、頭の中にモデルを浮かべると書きやすかったので、勝手にすみませんが、そうさせていただきました。第3回以降からもうちょっとストーリーにひとひねり入れるようになり(ってほんとにちょっとだけですが)、いまさらですが、第1回、第2回ももうちょっと何か工夫すればよかったなあ、と思ってます。。。ではまた!

Posted by: こん at October 30, 2006 11:12 PM

ゆうきさん

なるほどー。やっぱりそうですよね。
日本は原爆というあってはならないことからはじまった唯一の国ですもんね。
僕はいままで知識が増えていくにつれて、余計にわからないことが増えて、こう、「原爆」に対してのタブー意識のようなものが強くなって…口に出せばすべての楽しみをも奪ってみんな黙ってしまう、罰が当たるような感覚でいたんですが、語るべき時かもしれませんよね。

でも僕がもしアメリカ人なら太平洋戦争時やその後のルーズベルトのやったことをもしかしたら支持するかもしれないと思うんです。だから国際問題って単純なことが難しいのかなとも思います。長々すいません

あ、来週末シドニーでお会いできるの楽しみにしています。

Posted by: ゆうき(大坂) at October 31, 2006 11:14 AM

とにかく、無事帰れて良かった!!
何にもなかったら
どんなことも、後で笑って
いや~、あん時は、なんて話せるけど
もしも何かあったらね・・・。
最終回読めてスッキリです。

Posted by: Chie at October 31, 2006 12:56 PM

>ゆうきくん

確かに実際に戦争となると、自分がどんな心理状況になるかは分かりませんよね。それを考えると、やっぱりホントに怖いなって思います。ではシドニーで!

>ちえちゃん

最終回まで読んでくれてありがとう~。とりあえず覚えているうちに詳細を書いてしまえてよかったです。でもほんとに、もしも何か起こっていたら、と考えると、気をつけないとなって思います。また!

Posted by: こん at November 2, 2006 1:19 PM
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