January 23, 2003

夏の思い出2

また長文。読む人知らず。

2000年の夏、長期の海外旅行に出ることにした。
それまでの旅行ではいつも友人にバックパックを借りていたので、
今回は自分で用意することにした。
ある休日、大雨の日、居間では母と兄がごろごろしていた。
せっかくの休日、雨でなにもしないのもなんなので、
3人でアウトレットモールに行くことにした。20代半ばの兄弟と、その母。

行ってみてわかったが、アウトレットモールというのは少し専門的な商品を買うには
あまり適していない。ごく一般的な日用雑貨が、陳列品の大半を占めている。
長期旅行用の50ℓくらいのバックパックが欲しかったが、なかった。
母はあまり買い物には興味がないようで、ただうろうろしていた。
会社員の兄は、休日に物欲を開放するような、ごく健全な社会人なので、
何やかやと見て回っていた。

用がなくなったので、雨宿りをしながらひとりでタバコを吸っていた。
休みの日に部屋着のまま出てきたので、ぼくの姿はといえば
父がYシャツの下に着る妙に首が開いていて妙に厚手な白いTシャツに
海水パンツ、ビーチサンダルという、意味不明でだらしのない格好だった。

大体そういうときに限って、人に会うものだ。
ちょうどタバコの煙を吐きながらあくびしているところに、
友人間でかわいいと目されている女の子と、その彼氏に出くわした。
あちらはいかにも休日のデートといった感じの、ラフで清潔感あふれるいでたちであった。 
かたやこちらは雨に濡れそぼった、だらしのない男。雨で乳首まで透けている。
しかもいい年して家族連れだ。

どうやら見知らぬ場所で知人に会うというのは、予期せぬハプニングらしく、
退屈なショッピングモールを散策していたカップルは、にこやかに話しかけてくれた。
しかしこちらは、いつ同じくだらしない家族が
「おーい○○(家族内での愛称)」
なんて生活感丸出しの大声で呼びかけてくるんじゃないかとびくびくしている。
いまだにそういうことを恥ずかしがってしまうのだ。
向こうは大して気にしないのだろうが、ただでさえ惨めな気分のときに、
さわやかカップルにアットホームな話題を提供する気にはなれなかったのだ。

せっかく会ったので、場所を変えてお茶でも飲むことにした。
レストランに向かって歩く二人の後姿は、とてもほほえましかった。
彼氏のほうのジーパンは高そうだった。
その後ろを歩く自分は、さしずめ野良犬だった。
ところで、どうしてこの二人は、傘にいれてくれないのだろう。
お茶の席では、彼氏がごくさわやかなトークを披露してくれた。
日頃は負けじと下品でオチに満ち溢れたトークを炸裂される自分だが、
この日はとてもそんな気になれなかった。

小一時間会話をし、そろそろ帰ろうということになった。
こちらも、何も言わずに別れた家族が心配だったのと、息苦しかったので、賛成した。
帰りはどうするのかと聞かれ、思い出したように家族と来ていることを言った。
彼氏は「あ、そう」と無関心なご様子。
ぼくは、このまま帰るとこの脱力感がいつまでも続く気がしたので、
「せっかくだから、途中まで送ってよ」と言った。彼氏は多少面倒くさそうだったが、女の子のほうがまあいいじゃないと言ったので、同乗させてもらうことになった。
彼氏のほうは、雨にぬれるとなんなので、車をこっちに持って来ると走っていった。
さっきは傘に入れてくれなかったのに。
ぼくはちょっと走って見つけた家族に、先に帰ってくれと言い、彼女のところへ戻った。

車寄せまで歩く間、彼女はやけにうれしそうだった。
間をもたすために、「どんな車乗ってんの?」と聞いた。すると彼女は
「それがねー、ジープチェロキーなの。子供の頃から好きな車なの。」
とかなんとか、自分がどれだけその車が好きかを話してくれた。
実を言うと、ぼくもジープチェロキーが欲しかった。緑色のやつ。
実際に乗っているのは、兄貴の国産中古車。またまた惨めな気分になってきた。
「ふーん、で、何色なの?」「うん、緑」
ガーン。もう完敗。いつもはそういった生活レベルの違いなんて気にしていなかったが、
なんかこの日はガツンと来た。男としても、完敗な気がした。
いい車の前では、「物なんて」とかいった高尚な精神論もたやすくふっとぶ気がした。
Tシャツからはあいもかわらず乳首が透けていた。

そこへ、重厚なエンジン音とともに、チェロキーがやってきた。
さらに、助手席側をこちらに向けるため、ご丁寧に切り返しまでしてくれた。
彼女はその優雅な姿をうっとりしながらみつめ、
ぼくは下を向いて自分の乳首を眺めていた。
車がこちらによる際、水しぶきがぼくの素足にかかった。また少し、みじめになった。

中のシートは黒い本革だった。「おー、かっこいい」とぼくは言った。
乗車のするとき、彼はアメリカンジョークのように、
「あ、シートを濡らさないでね。」と言った。そのときのぼくには冗談にとれず、
さらにへこんだ。
ダッシュボードには変なオレンジ色のマスコットが置いてあった。
彼女の好きなキャラクターらしい。
車中二人はぼく抜きで会話を続けた。
会話に入ろうと、どうでもいいことだが燃費を聞いた。
「二駆でリッター4キロ、四駆でリッター2キロ」らしい。
負け惜しみに、「うわー燃費わりーね」と言った。

その後、モールの最寄の電車の駅で降ろされた。自宅まで送ってくれなかった。
降車場所は、ロータリーの道路上だった。当然、また雨に濡れた。
お礼を言い、駅に向かって走った。

電車を待つ間、駅のホームで寒さにがたがた震えた。
下を向いたら髪からポタポタ水がたれた。あいかわらず、乳首は透けていた。
Tシャツを下に引っ張ると、乳首は見えなくなった。

家に帰ると、兄と母が、寝転がってテレビを見ていた。妙にほっとした。

Posted by nei at January 23, 2003 01:07 AM | TrackBack